物体の実像を捉える。横山奈美「誰もいない」

物体の実像を捉える。横山奈美「誰もいない」

2020-07-04
絵画

今回取材したのはケンジタキギャラリーで行われている横山奈美氏の展覧会「誰もいない」

圧倒的な光を描く技術を駆使し淡々と描かれる様々なモチーフはどれも光を集め輝くように見えました。また、ネオンを描いたシリーズでは暗闇とその中でぼんやりと光るコントラストが美しく、燦然とした輝きを持ちつつもどこかに寂寥を感じさせるような印象を持ちました。それではご紹介いたします。

Onlineと現実の交差

covid-19により多くの企業・学校・公的機関が一時的に閉鎖もしくはオンラインへと移行した。
美術業界も例外ではなく、オンラインでの美術取引はこれまでに類を見ないほど盛況し、ギャラリーや画廊などへ大きな影響をもたらした。

この渦は作品の売買だけではなく、鑑賞体験にももちろん影響した。

オンラインでの売買が増えるということは、作品をオンラインで鑑賞することが多くなるということで、つまりそれは、従来行われてきた「きて、みて、かう」のリズムに変化をもたらすことを示している。

《Golden objects》 2020 木片に油彩 H.4.6~H.20 cm

今回ケンジタキギャラリーで展示を行っている横山氏は、写実的なタッチで油彩を描く。
繊細な光を捉え、作品に落とし込むその圧倒的な技術は私たち鑑賞者に「在る」という意識を覚えさせる。

この技術は本来ギャラリーが持つ「みる」という機能が作用し、初めて現実のモチーフをを超えたより「本物のモチーフ」を描いていると知覚することができるように思えた。

これは現代の画像送受信システムでは捌き切れない情報から得られるもので、オンライン上で鑑賞する際はその部分は抜け落ち、本来の作品と相対して得られる情報の洪水のような鑑賞体験は起こり得ないのだ。

しかし反対に、言語化やコード化できない情報が抜け落ちることによって、圧倒的繊細技術による書き込みの全体像を捉えることができ新たな視点が生まれてくることもまったくに否定できない。

1Fにて展示されている、壁にを埋め尽くすようにも思える大きなトイレットパーパーの芯を描いた作品も印象的である。

《逃れられなない運命を乗り越えること》2016 麻布に油彩 259x194cm

私たちの日常にある「もの」が画面に大きく大胆にそして精密に表現されることによって、道具としてではなくそれ自身の素材や他のものと切り離された単体的な存在意義が新たな「もの」として知覚され、私たちの感性を大きく揺さぶっていくようにも思えた。

また、背景の雰囲気は全体として暗く描かれているところにも少し注目してみたい。

日々様々なコンテンツや道具、食料を消費し活動する私たちにとっては消耗品は意識の及ばない品だ。つまり、私たちはこの品を暗黙のうちに背景のように扱い、それ自体の存在を意識しなければ捉えることができないのだ。

そして、消耗品はその役目を終えると処分され、また新しいものへと交換される。
こうしたものひとつひとつの存在ではなく消耗品全体としてひとつのロール(役割)として認知されることが、悲しくも運命であり、それこそがこの背景の退廃的な情緒を生み出しているのでないだろうか。

作品に映り込むストーリー

丁寧に光を捉え書き込まれた作品にはしばしば展覧会全体としてのストーリーを捉えることができた。

作品の反射をよくみてみると、1Fにて展示されていたトイレットペーパーの絵画が見える。

作品それぞれが金色という色付けだけで紐つけされているのではなく、密かに展覧会全体のエッセンスを加えていくことによって展示全体としてのまとまりや、一体感を生んでいるように思える。

《Golden objects》 2020 木片に油彩 H.4.6~H.20 cm

また、光の捉え方で言うとそれぞれの光沢具合にも配慮されていて、くすんだ反射やきらめくような眩しい反射、落ち着き払って威厳があるようにたたずむ雰囲気を持つ反射など表現の幅が広く観ていてとても楽しいものであった。

ネオンのシリーズも同様で、色鮮やかなグラデーションを持つネオンが床に反射し見える色相は繊細な色の変り具合を見事に捉えまさに「本物」を超えたようにも感じた。

《PAINTING》2020 麻布に油彩 162×130.5cm

人の持つ「想像力」という鑑賞をより素晴らしいものへと高める作用は、描かれたモチーフそのものの余白から理想的なある意味完璧な物体を頭の中で再構成する。

そしてその作用は、写真作品ではなし得ない、生々しさとも言える作品のアイデンティティを産むのだ。

まとめ

描く「もの」それ自体の存在価値を改めて真正面から向き合い対峙することによって得られる新たな眺望を得ることができる。また、絵画として描かれることによって現実世界にあるモチーフを超えてより完成されたその物質本来の「理想」へと手を伸ばし、掴み得ることができるのではないだろうか。

展覧会情報

横山 奈美 – 誰もいない

会期:2020.6.13 ~ 7.22
open:11:00 – 13:00, 14:00 – 18:00
日曜・月曜・祝日休み

場所:KENJI TAKI Gallery
名古屋市中区栄3-20-25