今回取材したのはガレリア・フィナルテで行われた中村太一氏の展覧会。
様々なモチーフを混在して配置し、それをメタファーとして表現する中村氏の作品はどれも人を惹きつける暗さがあるように思えました。そんな展覧会をご紹介していきます。
晴れることのない空
彼の作品に描かれる多くの情景はほとんどが曇りや夜という暗い空間によって構成されています。
例えばこの展覧会で一番大きな作品として展示されていたこの作品。
「Nirvana」という文字がまず目に飛び込んできます。
この言葉の意味は涅槃や解脱など精神性に触れるような意味を持っています。
そしてこの下に描かれているものは様々な形をした群衆で牛のような形だったり、円柱の形に見えたりしています。
これら大きく三つの要素によって彼は何を表そうとしていたのでしょうか。
思うに彼は人間の疑念渦巻く世界を描き出しているように思えます。
この作品に関して考えてみると、まずこの暗い空は人々の心を写しているのではないでしょうか。
人が人を疑い負の連鎖に陥って行ってしまうようにそれぞれの抱える不安や不信感を象徴するように感じました。
群衆に関して言えばそれぞれ顔の形が変わっているのが鍵にのように見えます。
それぞれに特徴があるこのモチーフは人種や違う考えを持った人々を示し、現代社会におけるグローバリズムによる人種や民族問題の激化を表しているのではないでしょうか。
そのようなことが描かれている中にこの「Nirvana」という文字が異彩を放ちます。
描かれた彼らはこのような世界に疲れ果ててしまい、この環境から抜け出したいという無意識の思いを直接的な言葉にして表したように見えました。
ごみとセクシャリティ
会場にいくつか設置されていたインスタレーションの中でも草むらとごみが一体となったものが強く印象に
残っています。
草むらの中に配置されているのは廃パイプやタバコの吸い殻壊れたCDなど河川敷に転がっていそうなものばかりです。
そのようなゴミの中でもセクシャリティをほのめかすようなものも混ざっていました。
このようにインスタレーションを構成したのはどのような糸があったのでしょうか。
ひとつ考えられるものとしては「旧来のジェンダー思想から変わっていくことを示している」ということです。
今の社会の動きとして、これまでの性的指向を若い世代は捨てそれぞれがそれぞれのジェンダーの多様性を認めていく社会が形成されようとしてます。
旧来の性的指向をゴミと一緒にすることによって過去のものとなり捨てられたという概念を示しているのではないでしょうか。
まとめ
巧みなメタファーによって構成されたインスタレーションや絵画作品は、今を生きていく私たちに改めて正面から問題を問いかけてきます。これから私たちはどう生きていくのか。それをこれらの作品と対話していくべきなのかもしれません。