「時代の分岐点;covid-19とこれからの美術」第1回 二宮 拓也

「時代の分岐点;covid-19とこれからの美術」第1回 二宮 拓也

2020-06-10
ニュース

COVID-19による影響が私たちの生活を大きく揺さぶる中、美術業界にはどのような変化が起こっているのでしょうか。この取材シリーズ「時代の分岐点;covid-19とこれからの美術」は、様々なギャラリスト、アーティスト、キュレーター、美術関係者に取材をし、これからの美術はどうなっていくのかを様々な視点からお話ししていただきます。

このシリーズはじめのゲストは、名古屋市千種区にてgalleryNのギャラリストをされている二宮 拓也氏。「これからの美術」をどうなっていくのか詳しくお聞きしました。

これまでのGalleryN

はじめに、これまでどのようなテーマでギャラリーを運営されてきたのかお聞きしてもいいでしょうか?

二宮:よく意識しているのは「対話の場」としてのgalleryN(以下 Nに省略)です。
作家と観客や、作家とギャラリスト、観客と観客同士などここに集まるたくさんの方々が対話する場でありたいと思っています。
また、「作家とギャラリーと観客が共に成長する場」ということも同時にテーマとして言えます。
例えばお客さんの場合、今までギャラリーに足を踏み入れたことがなかった方が「初めてNさんで購入しました」という方がいてくださったり、作家の場合だと「初めてNで個展をしました。」という作家が美術館の企画展に参加できることになったりすることになったり。

このように作家が成長していくことやNが名古屋と東京の二拠点で運営できていることを活かしてお客さんと作家それぞれをつなげていけることを目指しています。
そういった意味では双方向でコミュニケーションを取れる場でありたいです。
ただ展示されている作品を見て帰ってもらうということではなくて、この場に来てもらいそこで発生するコミュニケーションを通して何かを感じて帰ってもらえると嬉しいですね。

-COVID-19に対しての美術業界の反応はどのようなものがありましたか?

二宮:先日Zoomでいろんな作家たちとそれぞれの状況を話し合っていました。
話していた中でも意外だったのは、作家は家に籠もってずっと制作をしているのであまり生活が変わらなかったということでした。
ただ、彼らは作品を発表する場がないこのような状況をすごく残念に思っていることも事実です。
美術館も休館していますし、ほとんどのギャラリーも休廊しているので今まで当たり前のように触れてきたアートが無くなったことで、これまでの生活の中でアートは大きく存在していたんだと気が付くこともありました。

これまで頻繁に美術館やギャラリーに行っているお客さんも「3ヶ月間も美術館に行かなかったのは初めてだ」という方がいらっしゃったりして、本当にアートは生活の中に息づいていたんだな、と改めて実感しました。そういった状況の中で日々を過ごしていると「もし美術が世界から消えたらどうなるんだろう、美術がない世界はありえるのか」という問いが生まれてきてそれを先日のZoomの中でも話していました。

こんな状況にあるからこそ、美術そのものの必要性や影響を議論するいいきっかけになっていると思います。

-ありがとうございます。確かに美術そのものの意義を改めて確認するいい機会になっていますね。

美術に関わる全ての人のコミュニティ

-ギャラリーが持つコミュニティという性質に焦点を当てていくとこれからどのような展開がみられるとお考えでしょうか?

二宮:今、色々と美術の業界のことをみていると、オンラインでの美術鑑賞・作品鑑賞がこれからもっと進んでいくんだろうなというのが率直な感想です。もうすでにたくさんの美術館がオンライン鑑賞を始めていることや、GoogleArts&Cultureなどのwebサービスでは世界中の美術館を家にいながらいろんなアートの鑑賞体験ができるようになっていくと思います。

ギャラリーでもオンライン展示をスタートさせているところや、アポイント制で受け入れるところなど新たな取り組みが出てきているなというように感じています。
また、作家自身でもオンラインで発表する方々が増えてきているように思えます。
やはりこれもこれからどんどん増えていき、そしてこういった取り組みの中で、オンラインで作品を購入することもたくさん行われていくようになるのではないかと考えています。
例えばAmazonなど作品が販売されたりとかですね。
それは必ずしも悪い側面だけがあるわけではなくて、美術の裾野を広げるという意味では今まで美術に触れてこなかったような方に知ってもらえる一つのきっかけになるのではないかなと感じているところはあります。

しかし、オンラインの中だけでは人間は生きては行けないので同時に対面のコミュニケーションの重要性というのも見直されていくように思えます。作品もオンラインで鑑賞するというのはある意味では作品を鑑賞したことになるのかもしれませんが、実物と対峙して感じることはものすごくあって、それは鑑賞体験の中においてすごく重要なことだと感じています。なのでNとしては作品とのコミュケーションを改めて大切にしたいと思いますし、鑑賞する空間の重要性も新たに認識されていくのかもしれません。

なるほど、展示空間・鑑賞空間が改めて考えられることによってこれから生まれてくる作品はどのようなものになっていくのでしょうか?

二宮:作り手と受け手の距離がより近い関係性になっていくのかもしれません。
それはすごくいいことで、それがきっかけになって直接作品を観たり、作家に会い、話をしたりなど場を共有することが多くなると嬉しいですね。

また、作家側としても場を意識せざるをえなくなるので多大な影響が与えられていくと思います。
これから生まれてくる作品がどのような方向へ向かっていくのか楽しみです。

なるほど、ではこれからはどのようなアーティストが出てきて欲しいと思っていますか?

二宮:新しいアーティスト像というより、既存のアーティスト像を切り崩すようなアーティストが出てきてくれると嬉しいなと思います。

それは日頃から思っていたことだったのですが、新しく何かを作るのではなくて、既存のアーティスト像を壊し、溶かし生まれたアーティスト。そういった作家に会えると嬉しいです。

-ありがとうございました。

Talk Guest

gallery N 二宮拓也

1969年 福岡県生まれ。
会社員として勤務しながら、夫婦で2008 年名古屋に gallery N を設立。
17年3月、自身の東京転勤を機に gallery N 神田社宅をスタートさせる。

galleryN
gallery Nは日本のコンテンポラリーアートを世界に発信するギャラリーとして2008年に設立しました。 ギャラリーをコミュニケーションの場と考え、gallery Nに集う様々な人たちが作品や作家と直接触れ合える場を提供します。 gallery N はこれから活躍する若い作家を中心に紹介し、鑑賞者と作家の活動をより多くの人に知っていただけるよう、 できるだけ作家自身の言葉で作品を紹介し、作家の活動の場を広げていきたいと考えています。