「時代の分岐点;covid-19とこれからの美術」第二回 正木なお

「時代の分岐点;covid-19とこれからの美術」第二回 正木なお

2020-06-26
ニュース

COVID-19による影響が私たちの生活を大きく揺さぶる中、美術業界にはどのような変化が起こっているのでしょうか。この取材シリーズ「時代の分岐点;covid-19とこれからの美術」は、様々なギャラリスト、アーティスト、キュレーター、美術関係者に取材をし、これからの美術はどうなっていくのかを様々な視点からお話ししていただきます。

第二回のゲストは、名古屋市東区にてGallery NAO MASAKIを主宰し、空間ディレクターとしてもご活躍されている正木なお氏です。「これからの美術」をどうなっていくのか詳しくお聞きしました。

進化する場としてのGallery NAO MASAKI

-これまではどのようなテーマでギャラリーを運営されてきたのでしょうか?

正木:ギャラリーを開廊してから15年ほど立ち、その日々の中でさまざまに実験しています。
本質的なことは変わっていませんが「feel art zero」の名前でギャラリーをやっていた時代は、「知識ではなく感性から」という意識をもって運営していました。全体的なテーマで言えば、ただ単純にアートを鑑賞するという場所ではなく、感性のスイッチを入れる場所としての、いわば装置のような場所となることをイメージしています。作品の鑑賞を通して観るその人自身が気付き進化する場所であると考えています。

またアーティスト、鑑賞者に対しても、役割が違うだけでそれぞれが影響を与えあっていると思っています。それはどういうことかというと、アーティストは制作や表現に向き合っていく中で、それが自身の中の無限の広がりへと深化する。そうして生まれた表現に触れ、再び鑑賞者である私たちが自分自身が進化していくという連鎖を起こしていく。ある種のメビウスの輪のような感覚で各々が新しい気付きを得ているように感じます。ギャラリーとはそんな実験の場所なのではないかと思います。

vol.121「ALIVE 生き続ける芸術」より 作品:堀尾貞治

-covid-19によって販売経路が直接からオンラインへ変わることについてはどのような感触を得ていますか?

正木:どれくらいこれまで作品を観てきて、あるいはどのように生きてきて、自分の感性を磨いてきたかがものすごく大きく関わってくると思います。作品をみる力はすぐにできるものではないですし、実際にそのアーティストの作品を作品を観たことがあるかどうかでも、作品から得られる情報は全く違うものになってくると思います。

しかし、オンラインで初めてみる方にも、いつか実際にこの作品を観てみたいと思っていただけるように私たちギャラリーも方法追求していかなければいけないと思いますし、オンラインを全く否定するのではく柔軟に取り入れることで、これまで以上にたくさんの方に知ってもらえる良い機会にもなっています。

またこれからも本当に観たいと思っている人は展示に足を運ぶと思います。
近くて足を運びやすいから行くという動機が、オンライン化が進むことによって場所に縛られなくなり、自分の観たい作品を実際に観にいく傾向がより強まって行くのではないかなと考えています。
ですので、これを機に自分自身の本質を探ることで新たな価値観や感性に気がつくきっかけになって欲しいと思いますね。

vol.123 「宿り木 Yadorigi -trees divine spirit resides in-」中西洋人 より

全ての人がアーティストになる瞬間

-covid-19の感染が拡大したことによってどのようなこと変化が感じられましたか?

正木:遠くの人との距離が近くなったことを感じました。
緊急事態宣言中で外へ出られないので、海外でも国内でも距離感は一緒になってしまって、多くの人の相対的な距離が一度ゼロになったように思えたんです。
その際に「物理的な距離は関係ないんだ」と強く実感しました。
私のギャラリーでも、オンラインで美術の取引が海外や日本国内からもあり、これはある意味どこにいても全ての人が同じ距離感で作品を観ることができ、作品を選び買うことができることを示していて、そんな状況ができたことに対してはすごく面白く思っています。

それに加えて、一旦経済活動や私たちの生活全てが止まったこと自体が芸術活動的に感じました。
ギャラリーを運営しているというと、時折、まったく社会のレールから外れた存在のように扱われることがあり、「いいご趣味ですね」とか「アートがお好きなんですね」などと言われることがあります。しかし、実際にはギャラリー運営は金銭活動の側面も当然あります。誰しも生きることは白黒つけれない。全てを含みこんでいますし、生きるとは芸術そのものです。にもかかわらず社会と芸術は別の次元にあるように言われてしまう。
そういった矛盾がこのcovid-19により、ある意味全員が一旦通常世界のレールから外れる時間ができたことによって、自分自身の生き様や人生のあり方をを改めて問う状況が生まれました。
そのことが大きな意味ですごく芸術的に感じました。

vol.122 「JOUMON 甦りと創造 – resurrection & re-creation」大森準平 より

-なるほど、これから生まれてくる作品にはどのようなものが出てくると考えていますか?

正木:これはコロナ時代に限ったことではないのですが、アートは社会を映し、社会はアートを生み出す要因をがあると考えているので、混沌の時代の中で、それを変えていくような本質的な作品やアーティストが生まれることもあると思っています。しかしそれとは反対に体制的なものに巻かれて行ったりだとか、マーケティング的なあり方をコンセプトとして制作していってしまうということも往々にしてあり、それによって本質を見逃してしまうこともあります。
その両極はいつの時代でも存在していますが、これからの時代においてより表面化されていくかもしれませんね。

-それではこれからどのようなアーティストに出てきて欲しいですか?

正木:根っこの強い人が出てきて欲しいです。
自分自身の内側にある衝動に真摯に向かい合って、作品が形作られていくようなアーティストです。
一時の評価や世間の潮流に流されていくのではなく、流れを感じつつも自分の本質的な部分をぶらさず、何度転んでも立ち上がれるような人です。情報が多く多様で複雑になったものやことや社会に対して、飲み込まれることなく自分自身とも社会とも闘って本質的な表現を勝ち取っていける気概を持ってこれからの時代を迎えて欲しいです。

-ありがとうございました。

Talk Guest

Gallery NAO MASAKI 正木 なお Masaki Nao

ギャラリスト・アート+空間ディレクター

子供の頃から格差などの社会をとりまく問題に意識が向き、高校時代から社会政治活動に10年ほど向き合うが、社会システムの変革には個々の感性の成熟が必要と知る。2004年名古屋八事に骨董から器、石やガラスの破片まで様々なものを扱うセレクトショップ「生活装飾 Life deco」をオープン。日々の暮らしに新たなものの見方を提案する。 2005年に「gallery feel art zero」を開廊。何もないゼロの状態(知識で判断をしない)で作品と対峙し感受するアート体験の場を創る。2018年「Gallery NAO MASAKI」に名称変更。国内外のアートフェアに参加しはじめる。企画した展覧会は2020年現在、127回を数え、芸術の本質とは何かという問いと実験を続けている。

ギャラリストとしてだけでなく空間ディレクターとして、店舗デザイン、アートコーディネイト、グラフィックなど総合的にディレクションを行いアートのある空間をプロデュース。近年ではアートと社会のコミュニケーションにも興味が及び、パブリックアート・イベントなどのディレクションも行う。

2019年 ミッドランドスクエアクリスマス2020アートディレクター
2018年 竹田市 アート・クラフトフェア選考委員
2018年 ART SHODO TOKYO 審査委員
2017年 灯しびとの集い選考委員
2016年 UNESCO創造都市ネットワークフォーラム「food x design」イベントクリエイティブディレクター 2016年 瀬戸市新世紀工芸館 特別講師
2014年 ナゴパル文化祭2014 クリエイティブディレクター
2013年 ナゴパル文化祭2013 「パルコの庭」 総合ディレクター