今回取材したのはgalleryN(名古屋市千種区)さんでおこなわれた水戸部 春菜さんの展覧会「drawing622」
人間が生み出す魅惑的な曲線、輪郭にフォーカスし力強く描かれた作品は、古代から続く人類の進化の足跡をなぞっているようにも思えました。それではご紹介致します。
人間の限界を引き出す瞬間を捉える
水戸部さんの作品を初めて見たとき、一瞬何を描いているのかわからなかった方もいるかもしれません。しかし、観察を続けていくうちになんとなく「これは人を描いているのではないか。」という気づきが生まれます。この気づきによって作品と鑑賞者の距離がぐっと近づきくぎつけにします。
こちらの作品に描かれているものはオリンピック選手だそうです。種目は走り幅跳びでしょうか。
この作品のように極限まで人間の肉体を抽象化し、人間本来が生み出す力強さやそれに伴う美しさ、儚さなど、抽象化されることによって普段隠されている美しさの本質的な部分が表面化することによって鑑賞者を惹きつけているのではないでしょうか。
描かれる絵の具の色が白と黒の2色なのも、本質的なものをよりシンプルに映し出すための選択なのかもしれません。
力を込める一瞬を見定める
作品を実際に見てみると、ところどころに絵の具が塗ってあることがわかります。
これは何を表しているのでしょうか。
水戸部さんに尋ねてみると「この絵の具の部分は、それぞれの力や負荷がかかる場所を描いています。線を描きこのように絵の具を乗せていくことで強弱を表現しています。」とお答えいただきました。
なるほど、人間の動きに欠かせない強弱という要素を絵の具を塗ることによってうまく表現しているのですね。
また、この黒い絵の具をのせることは今回の展覧会からの試みです。
これまでの作品は全ての線を絵の具を描いていたのですが、その制作方法も変え、線の部分はキャンバスにプリントされ作られていました。この制作方法の変化によってさらに、本質的な部分を鑑賞者に伝えることができるようになっているように思えました。
まとめ
人間の力強さや繊細さを一つに閉じ込めたような作品でした。何重にも重ねられた線はもともとの人の輪郭という部分から脱し新たな何かへと昇華されていくのかもしれません。
前回このギャラリーで行われた展覧会
展覧会情報
「drawing622」
会期:2019-06-22 〜 2019-07-07
open:13:00~20:00
場所:galleryN
名古屋市千種区鏡池通3-5-1