デフォルメされる動物の造形。長田 沙央梨展 「そよぐかぜ まとう ひかり」

デフォルメされる動物の造形。長田 沙央梨展 「そよぐかぜ まとう ひかり」

2019-07-10
陶芸

今回取材したのはgallery Valureさんで行われている長田沙央梨さんの展覧会「そよぐかぜ まとう ひかり」
陶で作られた可愛らしい鳥や動物たちが織りなす空間はふんわりと優しく、心の機微を繊細に描いているようでした。それではご紹介いたします。

モチーフに鳥を使う理由

この展覧会で多くモチーフに使われている印象があったのが鳥です。

鳥がなぜモチーフになったのか、その答えは2014年の冬にまで遡ります。

長田さんがある時スケッチをしようと上野公園を訪れたところ、丸々とした冬毛姿の「ライチョウ」がいました。彼らは鳥類ではめずらしく足にまで毛がふさふさと生えます。それ以来、そのフォルムに引かれた長田さんは鳥をモチーフとした作品を中心に作るようになったそうです。

また、作品は陶で作られているのですがふさふさとしたモチーフのイメージからか全く硬さを感じさせず、むしろ本来の鳥らしいごわごわとした羽の質感がうまく表現されていました。この質感の表現にも長田さん独特の工夫が施してあります。

基本的に陶芸はへらやこてなどを使い成形させていくのですが、長田さんはそれらの道具を一切使わずに、手だけで成形していくそうです。手で作ることによって生まれてくる無数の痕跡が本来の鳥らしい毛並みのようになるのです。

まゆげにある「感情」の秘密

作られた作品をよくよく見ていくとあることに気がつきました。

それは、どの動物にもまゆげがあることです。

まゆげは人間の喜怒哀楽をとてもよく表している器官でもあります。そのまゆげを動物に落とし込み、感情表現を可能なものにしているのです。長田さんの考えは「ヒトほのように感情を表現する手段が少ないだけで、どんな生き物にも感情が備わっているのではないか」というものです。

動物に感情があるかないかという問題は、過去の時代から様々な議論がされてきましたが未だに明確な結論は出ていません。しかし、「動物に感情があったなら」と想像し、作品それぞれに感情を付与していく作業はなんだか、神様のようで興味深く感じました。

また、展示されている作品には絵画作品などもありました。

これらの作品は立体作品を平面に描いたものです。
描かれた立体作品は抽象化され、輪郭と目そしてまゆだけが残っていました。このように抽象化されることによって作られた動物の本質に迫っていけるような気がします。

まとめ

まゆげの角度や動きで表情が180度変わっていくことに驚きつつも、動物たちのもつ愛らしさに癒されました。陶を用いたモチーフの表現は、大胆ながらもとても実写的に作り出されていて興味深く思えました。

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展覧会情報

長田 沙央梨展 「そよぐかぜ まとう ひかり」
植物の持つ不思議なリズム、生き物たちの表情豊かな姿。
立体と平面を行き来しながら、柔らかな空気をまとう情景や存在のことを想う。
反復・誇張・比喩などの要素を与えることで、現実世界とは少し異なるユーモラスな雰囲気を醸し出す。

会期:2019/6/25~2019/7/20
open:12:00~18:00
日月休み

会場:gallery Valeur
名古屋市名東区亀の井1-2-001