自然にあるリズムに合わせて。梶 なゝ子 Nanako Kaji 「たったひとつの小さな音から物語は始まった。 」

自然にあるリズムに合わせて。梶 なゝ子 Nanako Kaji 「たったひとつの小さな音から物語は始まった。 」

2019-06-30
陶芸

今回取材したのはgallery NAO MASAKIで行われている梶なゝこさんの展覧会「たったひとつの小さな音から物語は始まった。 」

様々な粘土で構成されたリズムのある作品たちは、自然が作る時間の流れを可視化していくような、タイムトラベルをしているような感覚に陥りました。それではご紹介致します。

傍にある物質を拾い集めて

梶さんの作品を構成する素材は粘土と石、そして木の枝です。
それぞれの色で焼き上げられた粘土は、それらの素材と絡み合い自然の趣きを表現していきます。

作品中に使われている石や枝は、普段から梶さんが拾い集めているものだそうです。力強いどっしりとした印象の石や海のさざ波が聞こえてくるようなものなど様々な形、色をしたものが使用されていました。梶さんの作業場には拾い集められたたくさんの木の枝や、石がありそこから組み上げられているそうです。

また、作品に使われている木の枝には着色されているものもあり、そのことにより雰囲気が一体化し作品としての全体のリズム感が収束したようにも見えました。この着色された木の枝は今回の展覧会からの試みです。

白や、黒、ときにはオレンジ色に焼きあがる粘土と石や枝などを組み合わせ作っていくことによって作品の生み出す世界観が決まっていくようでした。そうして生み出される一つ一つの作品の世界観もまた、それぞれの色を放っています。

組み上がるそのイメージ

展示されている作品はどっしりとした重心のある作品や不安定に見えるような作品があったりと様々です。

このような作品はどのように組み上がっていくのでしょうか。
梶さんに直接お聞きすると「基本的に最初からイメージを完成させて作ることはありません。いくつか焼き上げてそれを自分の心地の良い形に組み上げていくんです。」とお答えくださいました。

なるほど、色や形それぞれの個性を生かした組み合わせを選び取り完成させていくんですね。

こうして作られていく梶さんの作品には「自然」が秘められているように思えました。
いくつもの中から「選びとる」という行為、その上で作られていく作品たち。じわじわと作品からエネルギー感じるのは私たちが古来から持っている地球人としての遺伝子が反応しているからでしょうか。興味深いところです。

まとめ

様々な色で焼き上げられた陶の作品たちは、自然の風に削られ変化していくような滑らかさを感じさせています。ランダムに組み合わさっているようでもその中にリズムが存在する。そのことも鑑賞者を心地よく感じさせているのかもしれません。

前回このギャラリーで行われた展覧会

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展覧会情報

梶 なゝ子 Nanako Kaji
「たったひとつの小さな音から物語は始まった。 」

会期:2019/6/22~2019/7/7
open:12:00~20:00
火曜(6/25,7/2)

場所:gallery NAO MASAKI
名古屋市東区葵2丁目3−4

一見、無機質な土の塊にみえるかもしれない。よく見ると、青みのある白、灰色がかった白、あるいは濃いグレー、淡いベージュ、無数の重なりは、時にやさしく、時に鋭い印象を残す陶土の群像である。そこに寄り添うにように、無作為に、しかし入念な感性で選ばれた自然物、人工物、造形物たち。

これらの詩的断片のような梶なゝ子の行為の合間に見えるのは、人智を凌ぐこの大地のもたらした大いなる存在である。そして、そこにほのかな畏敬の念を抱き、見えない憧憬をみる少女の様に無垢で、残酷なくらい鋭い一人の女性美術家の姿である。その作品を通して、いつも目の前には風が吹き抜けた痕のような静かでざわめく広大な風景がみえるのである。

Gallery NAO MASAKI
正木なお

路傍の石にも、ヒトの価値観を越えた様々な記憶が、
何十億年という時の流れとともに宿っている。
全ての命が始まるずっと前から地球はあった。

空はただ青かったといえた時代、闇は闇として確かにそこにあった。
それぞれの命は、地の上で、その個としてのあり様をただ受け止め、
宙を仰ぎ、風を聞き、世界の意思に寄り添い、
今日という日をひたすら生きていた。

やがて、ひとつの事実が瞬く消し去られ、
新たな真実がいとも簡単につくられる時代がやってきた。
架空の価値が溢れ、自らの生きる場を確認する術を失い、
時の渦の中に帰還していくものたちは、
それ自身の物質性を露わにして、其処此処に散らばっていく。

戦いに勝ったものたちの歴史ではなく、
静かに世界を見はるかす無数の小さきものたちの歴史があると思う。

梶 なゝ子

美術家、陶芸家
1976 京都市立芸術大学陶磁器科卒業 、八木一夫氏、他に師事。1978年に初個展を開催後、1980年 「アート・ナウ’80」 (兵庫県立近代美術館 ) 、2008年 「魅せられる…今、注目される日本の陶芸展」(滋賀県立陶芸の森、他静岡、東京、フランス、アメリカに巡回)、2018年 アンサンブルゾネ舞踊公演「迷い」に、造形パフォーマンスとして参加するなど、近年は陶芸だけだなく、インスタレーション、ドローイング、写真など分野を越えて、創作活動を行う。

〈主な個展開催ギャラリー〉
ナノ・リウム(富士吉田)、ギャラリー開(神戸)、アトリエ2001(神戸)、ギャラリーやまほん(伊賀)、ホップギャラリー(エストニア)など。

〈パブリックコレクション 〉
滋賀県立陶芸の森(滋賀)、モーリッツブルグ美術館(ハッレ、ドイツ) 、トヒソオ、マンションパーク(コヒラ、エストニア) アップライト工芸デザイン美術館(タリン、エストニア)

〈出版〉
作品集「陶 vol.44 梶なゝ子」京都書院、1992年

Gallery NAO MASAKI(旧gallery feel art zero) にて ―
〈個展〉
2013「家にかえる」
2010「遠く、風をきく 梶なゝ子」
〈グループ展〉
2015「something new, with feel art 10」
2019「辻徹追悼展 現 Utsutsu」