今回取材したのはgalleryNAOMASAKIさんで行われた写真家 辻徹さんの追悼展「現」 utsutsu
辻徹さんの作品を中心に、氏と親交のあったアーティスト7名が辻徹氏へのオマージュとして作品を展示していました。
「何気ない一瞬は消えていくからこそ美しい。」
という無常感を訴えているような作品たちが並ぶ辻徹さんの展覧会をご紹介いたします。
鋭く突き詰めた生涯
辻氏の作品は、奇跡的な瞬間を捉えるようなものではなく、存在の美しさそのものを引き出すようなものでした。
例えばこの作品、
物干し竿のような、小屋の骨組みのようなものが写っています。
このシンプルに洗練された線の美しさと空を自由にかけていく鳥の対比がすごく綺麗に画面の中へ落とし込まれているように感じました。
また、壁を一周するように展示された作品たちを観ていると、人間を写していないことに気がつきます。なぜ人間を映さないのか、私には「自然の、純粋無垢であり洗練された立ち振る舞いこそが美を最も映し出せるから。」と言っているようにも感じました。
鵜(う)の池小屋、雨風に晒されたロープ、桟橋の跡などは人と自然の関係性を物語っているようにも思えます。
かつて人工的に生産され、手入れや掃除をされながら存在を保たれていたこれらの物体は、人という依存先がなくなってしまうことによって壊れていくしかありません。この仏教で言う「無常観」のような部分を捉えていたように思えました。
7人それぞれの世界観で作る
辻氏の写真作品とともに展示されていたのは、氏と親交のあったアーティスト7名が辻氏のオマージュ作品として制作されたものでした。
実際に辻氏が使っていたものを用いて作られた作品もありました。
それがこちらです。
これは古いカメラのフィルムと海で拾ってきた釣り糸などの素材を組み合わせて作られたものでした。
なるほど、海辺で出会う漂流物との関係性と、人と人が出会うことを思い重ねイメージしているのかもしれません。
また、こちらはアートフェア東京でも展示された中西洋人氏の作品です。
彼の作品は、虫食いや朽ちているところがある木材をそのまま使い花器を作ると言うもので、虫食いや朽ちている部分をあえて露出し作品としての存在感を高めているところにとても興味をそそられました。
まとめ
辻徹さんの写真に映るものは、何か特別なものなのではありません。しかし、この世の中に充満し、見えなくなったものに圧倒的な技術力を駆使し焦点を当てることで、この世界の無常感や、消えていくものに対しての美しさがシンプルに鑑賞者の中へ入っていくような作品ではありました。辻さんの新しい作品を観ることができなくなってしまったのはとても寂しく感じます。辻徹氏のご冥福を心からお祈りいたします。
展覧会情報
写真家 辻徹 追悼展「現」 utsutsu
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会期:4/13~4/28
Open:12:00~20:00
火曜休み
場所:galleryNAOMISAKI
愛知県名古屋市東区葵2丁目3−4