色彩の重なりと零れそうな絵画。「響」 山口博一 + 稲熊兼

色彩の重なりと零れそうな絵画。「響」 山口博一 + 稲熊兼

2019-07-06
版画

今回取材したのはgallerynoivoiさんで行われた山口博一さんと稲熊兼さんの展覧会「響」

稲熊さんの今にも零れそうな水彩画と、どっしりとした油絵の対比や、山口さんの作る幾何学模様の重なりがハーモニーを生み出しそれぞれの世界観に引き込まれるようでした。山口さんと稲熊さんの作品の中にある景色にも注目です。それではご紹介いたします。

零れ出しそうな水彩

稲熊さんの作品の中には明確な「静と動」があるように思えました。

例えばこちらの水彩の作品では一瞬のゆらぎが表現されているのに対して、

こちらの油彩ではじっくりと時間を積み重ね作られていったかのような印象を受けます。

この印象の違いはどのようにして生み出されているのでしょうか。
ギャラリーオーナーの上野さんに尋ねてみると、「この二つの作品の違いは背作工程にあります。」とお答えくださいました。

稲熊さんが水彩の作品を作る際、意識するポイントは一瞬一瞬の筆の動きを丁寧に描いていくということです。緊迫した状況の中で描かれる作品だからこそ繊細で、今にも零れそうなように思える作品が出来上がるんですね。

では反対に、油彩の作品はどうでしょうか。
油彩の作品からは水彩とは打って変わってとてもどっしりとした印象を受けます。油彩の制作はじっくり時間をかけ成熟させるようにされているそうです。また、絵画の構成として、このようなボーダーを選んだのも、その制作工程を暗示して時間の層を描き出しているのかもしれません。

幾何学模様が奏でる重なり

山口さんの作品はドローイングではなく版画です。

展示されている作品を見渡すと、あることに気がつきます。

それは、使われている色の多さです。
通常版画は一色につき一版(一枚)であるため色が多ければ多いほど、刷る版は多くなっていきます。山口さんの版画作品ではこの作品のようにグラデーションを駆使して作られることも多いので、相当な時間と労力がかかって作られていることがわかります。

また、描かれているモチーフに関してもさまざまな考察を巡らせることができます。

例えばこの作品、私は最初「海」を表現しているように思えたのですがさらに良く観ていくうちに、津波のようにも見えてきました。

このような極度に抽象化された作品は鑑賞者の裁量によってさまざまな解釈が生まれ新たな発見ができます。このような現象を作者の山口さんは望んでいたのではないでしょうか。

まとめ

稲熊さんの作品には制作スタイルがそのまま写っているようで、水彩の作品は緊張感が漂っていました。また、山口さんの作品では、その制作工程よりうかがい知れる圧倒的な作品への情熱とこだわり、そして空間を抽象化し幾何学模様に変化させるという技はとても興味深く感じました。

前回このギャラリーで行われた展覧会

脈打つ植物の音。「BLOOMING - FADING」 STEPHAN SPICHER EXHIBITION
今回取材したのは gallery noivoiさん(名古屋市天白区)で行われたSTEPHAN SPICHERさんの展覧会「BLOOMING - FADING」 …
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展覧会情報


山口博一 + 稲熊兼

会期:2019.6.11-6.23