今回取材したのはギャラリーACSさんで行われた山口雅英さんの紙版画展
山口さん独自の方法で作られた紙版画は通常の紙版画よりも線の描写が細かいところまで映し出されていて、まるで銅版画のようでした。そんな山口雅英さんの展覧会をご紹介いたします。
独自の製法で作られた紙版画作品
この展覧会の開催者 、山口雅英さんは「紙版画研究室」という科学研究費助成事業にも採択された研究を行っており、その中で独自の紙版画の研究・開発をしています。
例えばこの版画。
この版画のモチーフとなっているものは何かわかりますか?
実はこの模様、ひび割れた道路の白線なんです。
この作品はエンボス製法という方法が使われており、山口さんが新しく考案した紙版画技法の一つです。この技法はプレス機を使い制作されるのですが、その制作プロセスは非常におもしろいものでした。
まず、モチーフとなるものの型を用意し、それをプレス機で紙に押し付け紙の表面を凹ませます(エンボス加工)。この紙を版にして作品を刷り完成に至ります。つまりコピーのコピーということです。
なるほど、コピーにしモチーフ自体をぼかしていくことによって作品全体としてのバランスがうまく取れているのかもしれませんね。
こちらの作品もエンボス製法を使って刷られたもので、葉の葉脈などすごく細かい部分まで写しとれています。
「正方」が紡ぐ遺伝子
作品をさらによくみていくと中央上部に十字架が書いてあることがわかります。
山口さんに「この十字架にはどんな意味が込められているのですか?」と聞いてみたところこんな答えが返ってきました。
「この十字は”正方”を表しています。ここでいう正方とは一般的な意味とは違い、正方形になっていくための遺伝子のような意味を持っています。物事が生まれていく遺伝子のつながりと、この十字を伸ばすと先にできていく正方形が重なって見えたので描きました。」と。
なるほど、遺伝子によって組み立てられていく生物と、十字から生まれてくる正方形のイメージをうまく作品の中に落とし込んでいるようです。
また、山口さんの作品の構図で注目すべきところは、大胆な余白の使い方です。
この余白に込められた思いは、”伸びしろ”です。
余白はまだ何も描かれていないどのようにでもできる部分であることから、作品の中に落とし込まれた正方の遺伝子をどのようにも伸ばしていけるんだ、というメッセージが込められているようでした。
まとめ
独自の製法で作られた紙版画は銅版画レベルの精密さを持ちながらも、製作方法はいたってシンプルということに驚きました。また、正方という言葉の中に込められた山口さんの思いも大変興味深いものでした。
前回このギャラリーで行われた展覧会
展覧会情報
山口雅英 紙版画展
会期:3/9~3/23
OPEN:11:00~18:00(最終日:17:00)
日曜月曜休み
場所:ギャラリーA・C・S
名古屋市中区栄1丁目13-4 みその大林ビル1F