植物的なモチーフを中心に描かれる近藤幸氏の展覧会へ取材に伺いました。
和紙を使った繊細な表現によって描かれる抽象的な景色は夢の中のような幻想的な雰囲気を持っています。それではご紹介いたします。
和紙のにじみとテクスチャ
この展覧会では版画と和紙を使った作品がともに並び、平面的感覚と立体的表現のバランスが際立っていた。特にこの和紙のにじみを利用した作品は魅力的だ。
厚さ1cmほどのキューブにパステルカラーの色彩が詰め込まれ、楽しい色彩が溢れている。それは、この直方体と言う形も相まって、形が整えられ研磨された宝石のようでもある。
この作品においては上部が明るいイエローとピンクのパステルカラーによって表現されており、清らかな水を連想させる爽やかなブルーが山の上層から流れる水脈のような印象を与える。
また、作品のテクスチャに注目してみよう。
これらの作品は和紙を貼りその上から岩絵具を使って塗った後、剥がして完成させるという技法が使われている。その痕跡として和紙の残滓がそこかしこに点在している。
こうしたプロセスを経ることで、直方体というのっぺりとした、ある意味で個性が欠落した物体にそれぞれの”顔”を与えているのだ。
それに加えてにじみが生み出す色のグラデーションも美しい。色が混ざり合うことでシャープさが削り取られふわりとした色彩を可能にしている。
金色の虹と水のモチーフ
次に版画の作品を見てみよう。
近藤氏が制作する版画の作品群の中にははところどころに金色の線が現れる。
水流か、虹か、それとも他の何かであるのか、と表現の解釈を広げていく存在だ。
また、これらのオブジェクトは線形的な形ではなく、円形に、緩やかに画面の上を滑っていく。
それはまた、なめらかな視線誘導の役割を果たしている。
景色として描かれるのは水に関係するものが多い印象だ。
梅雨の中でしとしとと降る雨音を聞き、生命が燃え盛る夏への希望と嵐の前の静寂とも言える画面の静けさは深い海のそこへと誘われていくようだ。
作家紹介
プロフィール
近藤幸
1961 徳島生まれ
2001 鳴門教育大学大学院修了
展覧会情報
No.421 近藤幸 展 2019.1.12/土 〜 1.26/土
Gallery A・C・S