美術が持つ、平和への力。西村正幸展「庭を耕す」

美術が持つ、平和への力。西村正幸展「庭を耕す」

2019-04-18
インスタレーション

今回取材したのはガルリラぺ(名古屋市昭和区)で行われた西村正幸さんの展覧会「庭を耕す」
西村さんは「戦争」「平和」などをテーマに活動されている作家さんです。作品の中で特に取り上げているのは幼い子どもや女性など、戦争のなかで被害を受ける立場にある人々を中心に描いていました。この人々が描かれた、作品一つ一つの中には膨大なメッセージが内包されていました。そんな西村正幸さんの展覧会をご紹介します。

子どもの持つ力は天使を超える

この展覧会で西村さんが展示していた作品には膨大なメッセージが込められています。
例えばこの作品。

タイトルは「まるで空から種を蒔くような」です。

皆さんはこの作品を見たとき、この飛行機は何をしているように見えましたか?
私は空爆をしているように見えました。しかし、実際によく見てみると描かれているのは赤十字軍の飛行機が救援物資を空から送っているところです。飛行機の頭の方に赤十字軍の旗が描かれていることからもわかります。また白い湖のようなところの真ん中にポツンと塊があります。これは救援物資を表しているそうです。

敵か味方かわからない状況では爆撃機か救援機かわからず、飛行機が飛んで来ると、怖い思いをしているのではないかと想像したそうです。

そして、さらにじっくりと観察していくと、飛行機の下に緑色の点が描かれていることもわかります。この点の数は全部で合計12個あり、この12という数字はイエスの弟子の数でもあり、意味のある数字だそうです。実は、救援機の窓も12個描いています。コックピットの窓は師であるイエス・キリストの象徴、12の窓は12弟子たちの象徴。もしそこに気づく人があれば、これは救援(救済)のための飛行機だとわかります。救援物資は天使からの贈り物だという表現になっているのでしょうか。

平和にする力を持った言葉たち

展覧会のなかでも一際存在感を放っていた作品がこちらです。

左手にレースの手袋をしている場面を描いたものです。

なぜ「左手」なのか、と尋ねてみると、
「例えば、握手するとき左手を出されたらどう思いますか?世界の様々な宗教で左手は不浄を意味するので少しムッとするかもしれませんね。でも左手だとしても友好的に握手を求めてくれているんだと思い握手を返せばそこで争いは生まれず、平和になりますよね。両手で握り返せばなおのことです。」とお話ししていただきました。

なるほど、西村さんの作品の中で登場する「左手」というのは平和の象徴なのかもしれません。

また、宗教などで不浄とされる左手を堂々と描いていうことで価値観にとらわれない、争いを生まない思考を表現されているようです。

次に下の方を注目してみましょう。

多くの文字が書いてありました。
ここには何が描かれているのかというと、「カンディード」という物語の最後の文章“僕は僕の庭を耕さなくちゃ”ではなく、“僕たちは僕たちの庭を耕さなくちゃ”を抜粋して書いてあるそうです。またそのほかに、キリスト教の祈りの言葉など様々なことが書いてあります。

“僕は僕の庭を耕さなくちゃ”ではなく、“僕たちは僕たちの庭を耕さなくちゃ”という言葉、あなたにとって『僕たち』ってどこまでの範囲の人ですか。あなたはどんな思いを受け取りましたか。自分自身だけではなく自分と周りの人々で手を取り合い生きていく。そんなことを伝えているように感じました。

まとめ

戦地で起こる日本では想像もできなような悲劇が西村さんの絵画の中にはありました。しかし、決してマイナスな内容だけではなく、子どもたちが持つ未来へ進んでいく力や回復力も描かれていました。いま世界は平和が揺らぎ始めています。この時代にあなたは何を思いますか。

展覧会情報

西村正幸展 庭を耕す

会期:4/6~4/27
open:11:00~18:00
金曜日は20:00まで
水曜木曜休み

場所:ガルリラペ
名古屋市昭和区高峯町143−15