暗がりの中にある作品から溢れる静謐さ。鈴木恵美個展「quiet」

暗がりの中にある作品から溢れる静謐さ。鈴木恵美個展「quiet」

2019-01-23
絵画

彼の巨匠ヴィルヘルム・ハマスホイにも似た世界観を持つ鈴木恵美氏の作品。推理小説を読み進んでいくような立体的なストーリーが作品の中に散りばめられており、絵画の中の世界へと迷い込んでしまうような展覧会です。それではご紹介いたします。

「quiet」という優しくも強い世界観

この「quiet」というタイトル。
翻訳すると「静かな。穏やかな」という意味になるが、まさにタイトルとして相応しいといえる。冒頭で述べた通り、鈴木氏の作品の中から漂う静謐な存在感、画面の切り取りはデンマークの画家ハマスホイのような静的で美しい。

展示場内では眠りを誘うような、それでいてどこか暗く闇に引き込まれていくようなBGMが流れ、より一層作品の世界観を空間全体が一つのインスタレーション作品のような形で展示する。

等間隔に配置された作品群。

暗い画面の中に見える物語性

ゆっくりと引き込まれるような画面を眺めていると、画面の中に捉えているものは単なるふわふわとした牧歌的な景色を映しているだけではないことがわかる。

例えばこの作品は一つの小さな家−−−明るい色調で暗闇の中にぽっと浮かぶように存在する−−−は天上から何か白いものが降り注いでいる、もしくは家から天へと放たれている。

ここから思い浮かぶのは旧約聖書(出エジプト記)のマナの奇跡だ。
しかし、この絵画の中にには人物が存在しておらず、単に現実的風景として捉えるならば家からでた煙突の煙などが妥当かもしれない。

また、もう一つの解釈としてサンタクロース的物語を示唆している可能性もある。天上から何かが送られてくると言う行為を考えるとき初めに思い浮かぶのは、もちろんこれは個人的な感想だが、サンタクロースの逸話である。

この画面の中には単に小さな家とそれに続く小さな斑点があるだけだが、その省略こそが解釈の余地を産んでいる。

屋根の上に雪のような白い斑点。

特殊な紙質が作り出す独特の深み

さて、ここまで見てきた中でその絵画に使われている紙質が気が付かれた方がいるかもしれない。

鈴木氏の制作に使われている紙はタイで手漉きで作られる「マルベリー紙」という特殊な紙だ。

これはクワ科の植物である楮(こうぞ)を漉いた紙で、和紙のように表面がデコボコしているのが特徴である。これを使い、木製のパネルに紙を水張りし、その上から何度も下地を塗り、絵肌を作っていき、途中何度も絵具を剥がしたり削ったりしていくことで独特の質感を演出している。

また、鈴木氏は描き始める際には下描きなどはせず、偶然にできたカタチやにじみ、傷などを大切にしつつ、イメージしているものに近づけていくようなイメージで描いているそうだ。

それに加え、鈴木氏は作品の額も作品制作とともに制作する。味のある木材を枠組みとして与えることによってその世界観を損なうことなく鑑賞者をその世界へと包み込んでいく。

まとめ

ミニマルに抑えられた画面構成と、その中に潜む闇やある種の希望のような明るさ、そのコントラストが観るものを引きつけその世界へと浸らせる。展示内のサウンドにもこだわり、一貫した世界観は鑑賞者をより深いその作品の中へと引き込んでいく。

作家紹介

プロフィール

鈴木恵美
画家・イラストレーター
静岡県浜松市生まれ
手漉きの楮紙(タイ産マルベリー紙)に
アクリル絵具で、独特な質感の作品を描く。
書籍等のイラストレーションの他に、
店舗や施設へ作品常設展示、
全国各地で個展を行う。

HP:www.szkie.com