りんご畑のその中に。先間康博/Yasuhiro Sakima 「long tale」

りんご畑のその中に。先間康博/Yasuhiro Sakima 「long tale」

2019-06-16
写真

今回取材したのはgalleryHAM(名古屋市千種区)さんで行われている先間康博さんの展覧会「long tale」 先間さんが撮影しているものは「りんご畑」のみ。りんごが発するその爛々とした赤色が、木や天気の暗さと相まってより際立っていました。また、写真合成の技術を使った作品にも注目です。それではご紹介していきます。

会場に広がるりんご畑

展示されている作品をぐるっと見渡すとあることに気がつきました。基本的なカメラのアスペクト比とは少し違い、横に長くなっています。

アスペクト比とは
画面の幅と高さの比率のこと。

このようなサイズになっているのは作家の先間さんの思惑から生まれています。 通常の写真のサイズでこれらの写真を見ると、どうしても空の部分が多くなってしまったり地面が多く写ってしまっていたりすることがあります。ですので先間さんはりんご畑全体を映るように撮影した後、それを編集し作品として完成させます。 また、複数の写真からできた作品もあり、りんご畑の空気感や、撮影した日の気温湿度、天気などが伝わってくるようでした。 なるほど、ギャラリー全体をりんご畑の作品で包み込むように配置することで、作品の中の空気感をそのままギャラリーに移すことができているのかもしれません。

赤のコントラスト

りんご畑をみていく中で感じたのは「赤」という色の存在感です。 赤い果実の代表とも言えるりんごは、どんよりとした暗い空や繁ったりんごの木の重い色との対比がうまく取れているようにも思えました。 天気が曇りの時に撮影された作品が多いのはそのためかもしれません。 そのほかにもこんな面白い作品がありました。 防風のためのネットでしょうか。そのネットの繋ぎ目の部分がグリッド線のように見立てられ撮影されています。

グリッド線とは
写真を9分割する線のこと。
格子線。

また、ネットの色により写真の中の色がほとんど統一されていることも、作品としての収束感が増し、面白い構造になっているように感じました。 なるほど、りんご畑にという具象的な存在を撮るのではなく、概念的なものを映し撮ろうとしているのかもしれません。

まとめ

デジタルカメラでとるのではなく、フィルムで撮り続けているのは、りんご畑の存在をより具象的なものにしているのかもしれません。合成技術を使った偶然的な作品も現実的ではあるもののどこか空想的な雰囲気が漂う作品になっており、とても興味深く感じました。

展覧会情報

「long tale」 広大な林檎園の中、歩みを進めていくと、その表情が一歩と言わず、少しの動きに合わせ、刻々と変化していく。 そうした十年を越える自身の歩みの中で、何かが見えたと思う瞬間にカメラを置いてきた。 このようにして捉えた写真の数々は、私の中で蓄積され、再び林檎園に向かわせる原資となってきた。 けれど、気付けば、その残像は次第に重なり合い、お互いにつながり、林檎園の総体に、私の意識を向かわせるようになっていた。 今見ている場所で、その前の風景を思い、その先の風景を想像する。 そして、いつしか風景は、一つのつながりとして、私の頭の中に姿を現していた。 歩みながら風景を見ること。それは、目線だけでなく、身体の移動も伴って、木々の時空を果てしなく彷徨う。 そういった中で写された写真の連なりは、実際の林檎園とは別に、もう一つの新しい物語(tale)をともなった“風景”として、今ここに、表される。 しかしこれで私は、風景という掴みどころのないものの、尻尾(tail)の先っぽだけでも掴むことができた、と言えるのだろうか。 それは甚だ疑問ではある。けれど、この新たな広がりは、さらなる風景の尻尾を追って、林檎園のさらに奥に、私を立たせることになるだろう。 公式HPより 会期:2019/5/18~2019/6/29 open:13:00-18:00 日・月・祝日休 Closed on Sun, Mon and Holidays 会場: Gallery HAM 名古屋市千種区内山2-8-22