今回取材したのはガレリアフィナルテさんで行われた吉岡俊直展
コンピュータで3Dモデリングされたものをシルクスリーンでゴムシートにはるという独特の作品でした。会場の中はゴムシートの匂いで充満していましたが、それもまた演出として組み込まれていたところもすごく面白みを感じました。そんな吉岡さんの展覧会をご紹介します。
3Dモデリングを使った制作方法
ギャラリーに入り、充満するゴムシートの匂いのなかで展示されていたのはこちらの作品。
この粘土のような質感を感じるモチーフです。
ここではどのようにこの作品が作られていくのかをご説明します。
この作品の制作プロセスは4段階あり、それぞれ「モデルの撮影」「立体化」「画像作成」「印刷」という流れです。
では順を追って説明していきます。
「モデルの撮影」では、立体化する対象物(モデル)の3次元情報として30〜50枚ほど撮影します。
対象物が動かないものであれば、1台のカメラで少しづつ角度を変えながら撮影していけるのですが、対象物が動く場合ももちろんあります。その場合は、対象物の周りに30〜50台のカメラを設置。そして同時にシャッターを切ることによって瞬間を捉えることに成功しています。
「立体化」「画像作成」では、コンピュータに前述の「モデル撮影」で得た写真を読み込ませ3次元情報を計算、そして印刷する構図を決めます。
そして「印刷」という流れになるのですが、この印刷にも少し工夫があります。
コンピュータで組み上げられたモデルは、もともとこのようなブルーグリーンだった訳ではなく、モノクロームでした。
しかし、刷るものが黒のゴムシートのため使える色相が限られています。赤やオレンジは極端に彩度が落ちたり、黄色だと鮮やかすぎて浮く。ですのでこのようなブルーグリーンを使いシルクスクリーン技法で刷っています。
作品に込められた意識
これらの作品は撮影し、モデリングされた後、一切手を加えられることはありません。
それは作者の吉岡さん表現したいものに理由がありました。
この展覧会のタイトルは「可塑性のある情景」
可塑性とは、柔軟で、汎用性や利便性をもつプラス要素として捉えられがちですが、一度変形したら元に戻せない。本来の形がない。どこまでも了解できない性質。という不可塑的な要素にも解釈できることが、真をついているように感じタイトルへと使用したようです。
またこの展覧会の中での目的として以下のようなことが挙げられていました。
「人間が世界を知覚する際の枠組みを再構築する事で、外界を捉えることへの問いを誘発させることが目的です。」と。
つまり、視覚的要素を排除することによってその物事の本質を捉えやすくなるのではないかという事を伝えているのではないでしょうか。
人間の知覚の割合として視覚は83%、8割を占めています。
この8割から受ける情報の影響は大きなもので、例え匂いや感触が多少おかしくても視覚の情報で修正していってしまいます。この情報の修正で埋められた世界に隠された本質を覗くためには視覚情報をシャットダウンするという、なんとも皮肉にも面白いうようにも感じました。
まとめ
シルクスクリーンですられたモデルは粘土のようであり、どのようにも変化していくようなものに感じました。
この空気感は人間の表面上の情報はいくらでも変えられる、もしくは変わるということを示しているようでした。
前回このギャラリーで行われた展覧会
吉岡俊直展
3/19〜4/6
open:12:00〜19:00
日・月曜休み
会場:ガレリアフィナルテ
愛知県名古屋市中区大須4-6-24成田ビル上前津B1F